金木犀

金木犀の香りがして思い出したことがある。

それは私が4歳くらいのときのこと。祖母の家の窓際、それから畳と日向と橙色のイメージが頭に浮かぶ。

外から摘んできた金木犀の花をプリンのカップに入れて畳の上に置いておいた。目を離した隙に猫がそのカップをひっくり返してしまったから、私は泣きながらその猫たちを叱った。それを見た祖母が私をなだめる、というところまでを思い出す。


おばあちゃんという人間は、例えばスーパーで林檎を3つ買うのだけど、家に着いたときにはひとつも手元にないような人。帰り道でばったり会った知り合いとしばらく立ち話をして、それからおみやげにと言って林檎をあげてしまうのだ。

私はそんなおばあちゃんがとても好きだったと思う。

お家に泊まりに行くと夜ふかしをさせてくれたし、近所のおばちゃんが飼っている犬のちびと散歩に行って、拾った野花や葉っぱで飾り物を作らせてくれた。春はつくしタンポポを摘み、夏は桑の実を帽子いっぱいに摘んで歌を歌った、秋はどんぐりに顔を描いて、冬は毛布にくるまりながら深夜の怖いテレビを一緒に観た。

そうだそうだ、おばあちゃんと過ごす夜が、とても好きだったんだ。思い出した。


雨の日は金木犀がより濃く香る。ささやかな幸せに包まれながらあたたかい記憶に浸り、優しいきもちになった、そんな今日の夕暮れなのでした。